合成有機化学研究室の研究紹介


研究の概略
新規な生体触媒と化学触媒を設計・創成し、有用な有機化合物を合成しています。化学触媒の開発においては、生物が進化の過程で獲得した優れた原理を積極的に採用します。例えば、複数の分子間相互作用を集積作用させることにより、卓越した触媒機能を狙います。分子認識試薬・材料も開発しています。二酸化炭素の捕捉・活性化など、環境配慮技術への応用展開も図っています。以下に2,3の研究例を紹介します。

分子認識試薬・材料の開発
Chirabite-ARは、当研究室で開発された不斉認識試薬です。この大環状化合物は、空洞内の多重水素結合部位を使って様々な有機分子を捕捉できます。絶妙の配向でビナフチル基が配置されているため、光学異性体(R体またはS体)を効率よく差別化できます。混ぜるだけで光学異性体のNMRシグナルを差別化し光学純度を決定できます。この試薬は、東京化成工業からChirabite-ARという名前で販売されています。


二酸化炭素固定化触媒の開発
二酸化炭素は再生可能な炭素資源であるため、合成化学的な活用方法が求められています。二酸化炭素とエポキシドから環状炭酸エステルを合成できる高活性な錯体触媒を開発しました。 環状炭酸エステルは、リチウムイオン二次電池の電解液やポリカーボネートの原料としての用途があります。二官能性ポルフィリン1は、2つの官能基(ZnとBr)の協同効果・相乗効果により格段に優れた触媒活性を示します。 0.0004 mol%の触媒を用いて無溶媒条件下で反応を行うと、収率良く生成物を与えました。この時の触媒回転数(TON)は240,000でした。

上のポルフィリンのベンゼン環のパラ位にシアノ基を導入した場合、TOF = 42,000 h-1。科研費・新学術領域研究(高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出)による研究成果です。

370万倍の反応加速効果を示す三官能性有機触媒
酵素は、遷移状態を安定化するように進化した結果、著しく高い触媒活性を獲得したと言われています。酵素の触媒残基に対応する官能基を空間配置することにより人工酵素を創製できます。加水分解酵素リパーゼの活性部位を模倣した三官能性有機触媒1は、無触媒反応に比べて370万倍も大きな速度定数を示しました。種々の類縁体を合成し触媒活性を比較したところ、1のヒドロキシ基・ピリジン・尿素のうちのどれか1つでも欠けると触媒活性が激減したことから、1は3つの官能基が同時に遷移状態を安定化する三官能性有機触媒と言えます。3つの官能基の水素結合力や求核力は単独ではかなり弱いので、それらを集積作用させることが重要です。


生体触媒の改変:酵素反応の遷移状態の制御
酵素の中でもリパーゼは、光学活性化合物を合成するために使われる汎用性の高い生体触媒です。有機溶媒中でも安定である上に、酵素とは思えないほど基質適用範囲が広いです。当研室では以前に、この秘密を解き明かしました。最近、遺伝子工学を使って酵素構造を改変したところ、天然酵素を凌駕する変異酵素(I287F/I290A)が得られました。天然酵素では困難であった、両側に嵩高い置換基をもつ2級アルコールの速度論的光学分割を可能にしました。遷移状態がCH/π相互作用と立体障害の軽減によって安定化されるように設計されています。ラセミ化触媒(Ru錯体)との併用により動的速度論的光学分割もできます。酵素を有機化学の立場から理解することにより、酵素反応の遷移状態を自在に制御できる時代になりつつあります。


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