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主な研究テーマ

生物活性物質の効率的な合成法の開発を目指して,以下の研究に取り組んでいます。

・酸・塩基複合化学に基づく不斉分子触媒の精密設計

・立体選択的な炭素-炭素結合形成反応の開発

・ホウ素の特性を生かした炭素ー炭素結合反応の開発

・特異な構造を持つ生物活性物質の全合成

最近の成果

1.キラルなルイス酸触媒を用いたα-ケトエステルの不斉細見-櫻井反応の開発

α-ケトエステルに対して炭素求核剤を1,2-付加させると,四級α-ヒドロキシカルボン酸誘導体が得られます。本研究では,独自に開発したキラルルイス酸触媒を用いることにより,α-ケトエステルに対する不斉細見-櫻井反応(アリルシランの1,2-付加反応)を開発しました。これまで,ケトンに対する不斉細見-櫻井反応はほとんど報告されておらず,α-ケトエステルに対する不斉反応としては,本研究が初めての成功例です。メタリルシランを求核剤として用いると,90%以上のエナンチオ過剰率で四級α-ヒドロキシエステルが生成します。得られた付加生成物は,キナ酸の合成中間体などへ容易に変換することができる有用な化合物です。

"Catalytic Enantioselective Hosomi–Sakurai Reaction of α-Ketoesters Promoted by Chiral Copper(II) Complexes"
Yutaro Niwa, Mayu Miyake, Ichiro Hayakawa, Akira Sakakura, Chem. Commun.201955, 3923–3926.  
DOI: 10.1039/C9CC01159E LinkIcon

2.ゲラニル誘導体のバイオミメティックなブロモ環化反応に有効な触媒の開発

1-ブロモ-2,2-ジメチルシクロヘキサン構造をもつ多環状テルペノイドは,ゲラニル誘導体のブロモ環化反応によって生合成されます。本研究では,生合成経路に倣ったゲラニル誘導体のブロモ環化反応を促進することができる触媒の開発を行い,電子求引性基をもつチオウレアが優れた触媒活性を示すことを見出しました。本研究の特徴の一つは,安価で入手が容易な N-ブロモコハク酸イミド(NBS)を臭素化剤として用いる点です。また,ブロモ環化反応の反応速度が,内部アルケンの電子密度にみならず,基質末端の置換基 R のπ電子密度にも依存することを見出しました。この方法を利用して,含臭素多環状テルペノイドの一つである4-イソシモバーバトールを短工程で合成することもできました。

"Thioureas as Highly Active Catalysts for Biomimetic Bromocyclization of Geranyl Derivatives"
Miyuki Terazaki, Kei-ichi Shiomoto, Haruki Mizoguchi, Akira Sakakura, Org. Lett.201921, 2073–2076.
DOI: 10.1021/acs.orglett.9b00352 LinkIcon

3.立体選択的なHenry反応を利用したマンザシジン類の合成

 マンザシジンA〜Cはブロモピロールアルカロイドの一種であり,AとCは互いに6位のアミノ基結合不斉四級炭素に関するジアステレオマーです。また,マンザシジンBは,5位にヒドロキシ基が結合しているため,三連続不斉炭素構造をもちます。
 まず,マンザシジンAおよびCの立体選択的な合成法の開発を行い,キラルな二級ニトロアルカン 1 を共通原料とするHenry反応により,マンザシジンAおよびCに含まれるアミノ基結合不斉四級炭素を立体選択的に作り分ける方法を開発しました。本研究の特徴は,キラルな二級ニトロアルカン 1の保護基を適切に選択してHenry反応における反応遷移状態の立体配置を適切に制御することにより,マンザシジンAおよびCに相当する立体化学を作り分けられたことです。また,マンザシジンAおよびCの全合成も達成しました。

"Diastereodivergent Henry Reaction for the Stereoselective Construction of Nitrogen-Containing Tetrasubstituted Carbons: Application to Total Synthesis of Manzacidins A and C" 
Takayuki Kudoh, Yuya Araki, Natsumi Miyoshi, Mizuho Tanioka, Akira Sakakura, Asian J. Org. Chem.20176, 1760–1763.  
DOI: 10.1002/ajoc.201700568 LinkIcon

また,マンザシジンBについても同様に,基質の保護基や触媒として使用する塩基を適切に選択してHenry反応をジアステレオ選択的に促進することにより,5位および6位に関する立体異性体を作り分けることのできる合成法の開発しました。

"Formal Total Synthesis of Manzacidin B via Sequential Diastereodivergent Henry Reaction"
Yuya Araki, Natsumi Miyoshi, Kazuki Morimoto, Takayuki Kudoh, Haruki Mizoguchi, Akira Sakakura,* J. Org. Chem.202085 (2), 798–805.
DOI: 10.1021/acs.joc.9b02811LinkIcon

4.シクロプロペニルボロン酸エステルアート錯体のメタレート転位反応

シクロプロパン化合物は医薬品や天然物など生物活性分子によく見られる構造です。剛直な骨格をもち、置換基の三次元的な配置をコントロールできるため、多くの置換基や官能基を選択的に導入したシクロプロパン化合物は生物活性分子の”種”として有用であると期待されます。

本研究では、ホウ素上の置換基を隣の炭素へと立体特異的に転位させることができる1,2-メタレート転位という手法を利用して多くの置換基を含むシクロプロピルボロン酸を合成しようと考えました。シクロプロペニルボロン酸エステルアート錯体を基質とし、セレン化剤を反応のトリガーとして用いることで、β-セレノシクロプロピルボロン酸を高立体選択的かつ高収率で得られる手法を開発しました。ボロン酸構造(炭素ーホウ素結合)さまざまな結合(炭素ー炭素、炭素ーヘテロ元素など)へと立体選択的・特異的に変換可能な有用な中間体であるため、バリエーションに飛んだシクロプロパン分子を簡便に作ることができると期待されます。

Synthesis of functionalized cyclopropylboronic esters based on a 1,2-metallate rearrangement of cyclopropenylboronate

Haruki Mizoguchi,* Masaya Seriua, Akira Sakakura* Chem. Commun. 2020, 56 (99), 15545–15548.
DOI: 10.1039/d0cc07134j