1. 低原子価金属から有機化合物への電子移動過程の制御と金属活性化法の開発:
    Control of Electron Transfer Process from Low-Valent Metals to Organic Compounds and Activation of Metals.

     低原子価の金属(種)には大きく分けて2種類のものがあります。金属単体そのものと、低原子価の金属イオンです。金属単体の中でよく知られているのはナトリウム金属で、液体アンモニア中で芳香族化合物を還元するBirch還元が、金属から有機化合物への電子移動、すなわち1電子還元を利用した典型的な例です。例えば、ほとんどの金属は空気中で酸化されてさびますが、このことは金属が還元能力をもっていることを示しています。亜鉛やアルミニウムなどの金属も還元力をもっていますが、表面が酸化皮膜で覆われているため、なかなか有機化合物に速やかに電子を与えることはできません。研究室では、これら金属からの1電子移動に、異なる種類の金属を微量添加することが有効であることを見いだしました。

     太平洋の海底深くにはマンガン団塊がごろごろしています。マンガン金属は天然に比較的多く存在し、価格も比較的安く扱いやすい金属です。マンガンは亜鉛よりも強い還元力を持ちながら、有機合成反応にはあまり用いられてきませんでした。微量の塩化鉛(II)とMe3SiClを用いると、マンガンの酸化皮膜を取り除き、うまく活性化できることを見いだしました。

     アルミニウムの還元力は強く、「電気の缶詰」と呼ばれるほどですが、この金属も表面に透明ですが硬くて強い酸化皮膜があり、金属を還元剤として使うには活性化が必要でした。アルミニウムと同族のインジウムを微量加えると、アルミニウム金属が活性化できることを見いだしました。
     市販の亜鉛には2種類のものがあります。蒸留で精錬した亜鉛と、電気分解によって精錬した亜鉛です。後者は非常に純粋な亜鉛ですが、前者の亜鉛には微量の鉛が含まれています。有機合成にはSimmons-Smith反応に代表されるようにしばしば亜鉛を用いますが、このとき、鉛が微量でも含まれていると、亜鉛からの電子移動(還元)が大きく阻害されることを明らかにしました。また、少量のMe3SiClの添加により鉛の阻害効果が抑えられることもわかりました。     

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