江戸時代の17世紀に開発された肥前・有田焼「柿右衛門様式」で代表される赤絵は、その美しさのゆえに、当時ヨーロッパに輸出され王侯貴族に寵愛された。また、現在もなお、世界中の多くの人達に愛されている。この赤絵は、酸化鉄の一種のα-Fe2O3(ヘマタイト)微粒子が磁器の最表面に形成されてる薄いガラス層中に分散し発色している。このヘマタイトはベンガラと呼ばれている。その赤色の色調は、ベンガラ粒子の大きさ、焼成温度や赤絵層の厚さなどに影響されることが知られている。現在、良質のベンガラ粉末の入手が非常に困難になっている。
一方、備中・吹屋地区の銅鉱山から産出される硫化銅を原料として、江戸期18世紀に、鮮やかな「吹屋ベンガラ」が開発された。このベンガラは、高級な赤色顔料として、有田焼、九谷焼や京都清水焼などに使用されていた。昭和30年代後半に「公害防止法」の成立に伴い製造が中止になった。しかし、今なお、著名な陶芸家から「吹屋ベンガラ」が切望されている。つい最近までは、「吹屋ベンガラ」の詳細は不明であった。
そこで我々の研究室では、「吹屋ベンガラ」の再現を目指し、現存する江戸末期から明治期の「吹屋ベンガラ」を吹屋のベンガラ豪商・田村家より数種類提供いただき、材料科学的に「吹屋ベンガラ」の特徴を明らかにすることから研究を開始した。その結果、色鮮やかな「吹屋ベンガラ」粉末は、超微細なサイズであり、かつ微量のAlを含むことを初めて見出した。この結果に基づいて、種々の量のAlが置換したα-Fe2O3(ヘマタイト)の合成を特殊な合成方法で試み、色調や粉末粒子の大きさなど検討した。その結果、従来ベンガラの赤色の制御は焼成温度のみであったが、本研究で、焼成温度のみならず置換AL 量によって大きく影響されることを初めて見出した。さらに、最も色鮮やかな赤色色調を示すベンガラ粉末の作製条件や微粒子サイズも明らかにすることができた。(図1、図2)
今回開発した新規Al置換ベンガラは、以前の「吹屋ベンガラ」の赤色と同等以上の美しい赤色を示すことがわかり、「備中・吹屋ベンガラ」の再現に成功したと言える。この新開発ベンガラを用いて絵付した赤絵皿を図3に示す。現在大量生産プロセスの開発中である。今後、この新規「吹屋ベンガラ」は、様々な分野で、利用されることが期待される。
図1 備中吹屋ベンガラ,現代高級ベンガラと新規AI置換酸化鉄ベンガラの色彩の比較
図2 備中吹屋ベンガラ,現代高級ベンガラと新規AI置換酸化鉄ベンガラの粒子径の比較
図3 新開発したAI置換ベンガラを用いた赤絵皿