酸化鉄は工業的に非常に重要な材料であり、私たちの身の回りにもたくさんありふれているごく身近な材料です。例えば、ビデオテープの磁気記録材料、コピー機のトナー、お皿や口紅などの赤色顔料に使われているのがそうです。これらは人工的に合成した酸化鉄なのですが、自然界にはこういった人工的な酸化鉄とは全く異なる性質を持つ微生物が作る酸化鉄があります。最も有名なものとして走磁性細菌が作るFe3O4のナノ粒子が良く知られています。
酸化鉄を作る微生物は一般的に"鉄バクテリア"と呼ばれています。実は鉄バクテリアも我々の身近なところに見られます。例えば、側溝などに茶色の沈殿物をよく見かけることがあると思いますが、それがまさに鉄バクテリアが繁殖して酸化鉄を作っているところなのです(図1)。この茶色の沈殿物をスポイトで一滴すくって顕微鏡で観察すると大変興味深いチューブ形状の酸化鉄が多数見られます(図2)。
このようなチューブ形状をした酸化鉄は材料科学の分野で近年注目されており人工的な合成が試みられていますが、人工的に作るのには非常に大きなエネルギーと資源を必要とします。しかし、鉄バクテリアは地下水を鉄源として簡単にチューブ形状の酸化鉄を作ってしまいます。そこで私たちは鉄バクテリアが作る酸化鉄を新しい種類の酸化鉄と位置づけて"バイオ酸化鉄"と名づけました。
私たちは人工合成では得られないバイオ酸化鉄の様々な特徴(微細組織、化学組成、結晶構造など)を材料科学的な手法を用いて評価し、バイオ酸化鉄がどのような酸化鉄材料であるかを解明する研究を行っています。