図1 備前焼・「緋襷(ひだすき)」模様
六古窯の一つである備前焼は、有田焼などとは異なって上絵付け顔料や釉薬を用いないで、シンプルな1回の焼成のみで作られる。備前焼模様には、備前粘土、燃料の赤松の灰、登り窯中様々な雰囲気下での燃焼などの因子によって、緋襷、胡麻、窯変など多様な模様が現れている。特に、ここで紹介する「緋襷模様」(図1)は、鉄分の多い備前土と稲わらとの反応によって現れる特異な赤褐色の模様である。この模様の科学的原因については、従来ほとんど判っていなかった。 私たちのグループは、備前土ペレットと稲わらを用いて1250℃で加熱することによって、実験的に緋襷模様の発現を詳細に検証した。特に、冷却速度と酸素雰囲気に注目し、透過電子顕微鏡TEMによる微粒子の観察分析によって検討した。その結果を要約すると次の通りである。まず、1250℃から急冷した場合には、緋襷模様は出現せず、無色を呈する。TEM観察では、Al2O3粒子のみが観察された。次に、徐冷(約1〜10℃/min)の場合、緋襷模様が出現し、しかも冷却速度の小さいほど赤褐色の色が濃くなることがわかった。10℃/min 試料のTEM観察(図2)から、緋襷模様は約1μmのAl2O3(コランダム)粒子の端部に約300nmの微細な酸化鉄α- Fe2O3(ヘマタイト)がエピタキシャルに成長していることを見出しだした。さらに、1℃/min徐冷試料では、コランダム粒子の周りをヘマタイト粒子が包み込んだコアシェル構造の粒子が成長し、これが赤褐色の発色の原因であることが明らかになった。
図2 備前焼・「緋襷(ひだすき)」模様の微細構造(透過電子顕微鏡観察)
第8回「ロレアル 色の科学と芸術賞」金賞受賞に関する詳細情報はこちら
「備前焼緋襷模様」関連番組2件放映に関する詳細情報はこちら
備前焼作家・松本頼明先生の作品