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なぜ人工網膜なのか?

他の治療戦略は?
 網膜色素変性症などの疾患に対する治療法として現在研究されている主要な分野は、1)神経保護、2)再生医療(神経再生)、3)移植(神経網膜移植、網膜色素上皮移植)、4)幹細胞治療(神経幹細胞移植)、5)遺伝子治療、6)人工網膜 であり、各々の分野で研究が進んでいる。私は、他の方法に比べて制御が簡単で、臨床応用に一番近いという理由で人工網膜の研究をしているが、最終的にはこれらの方法を組み合わせることで、より良い治療が生まれてくると考えている。

生体に使われている様々な人工物
 人工物は、すでに長い間、身体のいろいろな部位で治療に使われてきている。眼内レンズ(人工水晶体)、歯科の詰め物、差し歯(インプラント)、人工関節、人工血管、脳動脈瘤の金属クリップやコイル、骨折した骨を固定する金属プレートやねじ、心臓の人工弁、心臓の冠動脈や頚動脈のステントなどである。また、人工内耳、心臓ペースメーカーは、長期にわたり生体組織に対して電気刺激を与え続けても、内耳の神経細胞や心臓の筋細胞に大きな侵襲をきたすことなく、その機能を果たしている。このような他分野における様々な経験から推測すると、人工網膜も長期間、機能を保持する可能性が高い。

人工内耳と人工網膜の違い(聴覚と視覚の違い)
 人工内耳は、すでに薬事法に基づく「医療機器」として製品化され、保険適用にもなり、臨床現場で内耳への埋め込み手術が頻繁に行われている。人工網膜の開発は、先行している人工内耳を参考にしている場合が多い。人工内耳は電極となる10数本のコードを内耳の蝸牛に挿入し、蝸牛の10数か所を刺激するのが基本原理である。言語の音声に合わせて、10数個の電極のうち、どの電極に、どのくらいの強さの電流を流すかを決める。言語の異なる音声は、電流を流す複数の電極の組合せを変えることによって識別できるようにしている。
 聴覚と視覚の違いを考えてみよう。聴覚では、音の「高い」「低い」という波長の違いは直線的で、一次元に配列している。内耳の蝸牛でも有毛細胞は音の波長の違いに対応して直線的に配列している。視覚では、「形」は二次元で、網膜は「面」をなし、網膜の視細胞も「面」として二次元的に配列している。ある「形」と別の「形」とを区別するには、2次元的に配列した電極をどういう組合せで刺激するか(どの電極に電流を流すか)を決めなければならない。「形」の識別を向上させるためには、大きな面をとり、その面の中での刺激箇所を多くする必要がある。つまり、人工網膜の分解能(解像度)を上げるためには、面積あたりの電極の数を多くする必要がある。
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