岡山大学方式人工網膜 本文へジャンプ
.なぜ光電変換色素を使った人工網膜なのか?

光電変換色素を使った人工網膜の原理
 岡山大学方式の人工網膜は、光電変換色素をシート状にして網膜下に埋め込む。光電変換色素(photoelectric dye)は感光色素(photosensitive dye)の一種で、ある波長幅の光(光エネルギー)を吸収すると分子内で電子が励起される。つまり光電変換色素の分子内で電子の偏りが起こるため、電位差を生じる。この電位差によって神経細胞の膜電位の変化が発生すれば、生体内の視細胞でおこっている現象のように、光エネルギーを神経細胞の興奮に転換できることになる。光電変換色素は色素増感型の太陽電池の開発にも使われている。光電変換色素によって光エネルギーから変換された電位差をため込めば、電池になる。

他施設で研究されている人工網膜
 現在、他施設で開発中の人工網膜には、大別して2つの方式がある。1つは、光ダイオード(光電素子)を集積し、円盤状にして網膜下に埋め込む方式である。前述したように、光ダイオードの欠点としては、感度と起電力供給の問題が大きい。つまり、通常の日常生活の明るさ程度では、神経細胞を刺激するに足る十分な電流がでないので、電池などによる外部からの電力供給で電流を増幅する必要がある。もう1つの方式は、カメラ方式である。カメラで画像を取り込み、この信号を処理して電極アレイ(電極集合体)に伝え、各電極から出力して網膜や視神経、あるいは直接、脳を刺激する。この方式では、どのように信号を処理するかが難しい。

岡山大学方式の人工網膜の利点
 岡山大学方式の人工網膜では、光ダイオードではなく光電変換色素を使うことによって、空間分解能が高くなり、光に対する感度もよくなり外部起電力は不要となる。また、ポリエチレンという柔らかく、しかも生体内で安定なフィルム(薄膜)に光電変換色素を固定することによって、大きな面積の人工網膜を埋め込み、広い視野が得られるようにできる。一方、人工網膜を網膜下へ挿入することによって、残存している網膜神経回路を利用するので、信号処理などの複雑な問題を考える必要がなくなる。
 欠点としては他施設の眼内埋め込み型の人工網膜と同様に、網膜の神経細胞(双極細胞や神経節細胞)が残存していて、しかも、神経節細胞の軸索の束である視神経が機能しているという前提が必要なことである。つまり、網膜の神経細胞がすべて死滅している場合、あるいは、視神経萎縮となっている場合には、これらの眼内埋め込み型の人工網膜は機能しない。このような場合には、電極で脳を直接刺激する必要がある。
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